初めてパトカーに乗ったときの話

パトカーの光

これはもう、このブログを始めてからずっと書こうかどうか迷っていた。

何度も書こうと思ったが、何度も踏みとどまった。

 

しかしこんな私も、もうあと半年ほどで20代最後の日を迎える。

気持ちを整理しておくために、今日は私が生まれて初めてパトカーに乗ったときの話をしたいと思う(全4章)。

第1章 『GO』

それは大学時代、バックパッカーを気取ってタイを一人旅していたときのこと。

そのとき私は、現地で知り合った日本人の男子大学生2人とバンコクで旅をともにしていた。

 

複数人の男性でバンコクを旅していたら、必ずといっていいほど頭をよぎる場所がある。

そう、

ゴーゴーバー

である。

 

ゴーゴーバーとはセクシーなお姉さんたちがステージで踊っているバーのことで、バンコクにはゴーゴーバーが集まるエリアがいくつか存在する。

「ゴーゴーバーにGOGOーっ!」という誰でも思いつくようなセリフを得意げに放ちながら、ゴーゴーバーにGOしたことのある男性は私たちだけではあるまい。

 

私がゴーゴーバーについて語りだしたら、日が暮れ、また朝日が昇り、いくつもの季節が過ぎ、気づいたら白髪まじりになっていること必至なので話を戻すこととする。

 

第2章 『遠ざかるネオン』

その日私たちは、ゴーゴーバーへ向かうためタクシーに乗った。そのときの男3人のハイテンションぶりは想像に難くないだろう。

 

ところが、ドライバーのおっさんに行き先を伝えると「ゴーゴーバーは今日お休みダヨ!代わりにオススメのトコ連れてくヨ!」だなんて言いやがる。

 

ゴーゴーバーにも休みがあったとは…リサーチ不足だった。

当然のごとく我々のテンションは富士急のドドンパ並みに急降下し、かといってスゴスゴと帰るわけにもいかず、仕方なくオススメのトコに連れて行ってもらうことにした。

 

しかししばらく走ったところで、ある異変に気づくこととなる。

どんどん街のネオンが遠ざかっていくのだ

遠ざかっていくネオン

「あれれ、穴場スポットにでも連れて行ってくれるのかな?!」なんて話しながら数十分。

着いた場所は、海外ドラマに出てきがちなマフィアのアジトのようなところだった。

 

筋肉ムッキムキでタトゥーだらけのお兄さんたちが親切にもお出迎えをしてくれていてタクシーが止まった瞬間にドアを開けて「ここイイとこダヨー!」なんて言いながら腕を力強く引っ張りさらにはシートベルトを外そうとまでしてくれている。

なんていうホスピタリティだ。

 

当然のことながらその親切心に応えられるはずもなく、丁重に腕を振り払いドアを閉め、3人でブチキレながらドライバーのおっさんへ向かって、

「とりあえずゴー!GOーーっ!」「いやゴーゴーバーじゃねぇよGOっつってんだよ!!」「ジジイまじブッ〇すぞ!!!」

と、もはや日本語で口々に懇願し、とりあえずGOしてもらうことに成功した。

 

第3章 『叶わなかった願い』

少し離れたところで下車したのだが、もはや自分たちがどの辺りにいるのか見当もつかない状態だった。

 

暗がりの中しばらく道を歩くと、遠くの方に警察官らしき人物がいることに気がついた。

 

「助かった、とりあえず現在地を聞こう…」と思ったが、深夜かつ人通りの少ない道で日本人男性複数人がウロウロしていたら怪しまれるに違いない。

しかも我々が向かっていたのはこともあろうに男たちの楽園、ゴーゴーバーなのだ。

3人とも大学卒業間近。就職先も決まっている状態で、トラブルになっては困る。

 

しかしながら、しばらく3人でコソコソ作戦会議をした結果「超フレンドリーにいけばイケるんじゃね?!」という結論に至った。

怪しさを全力で隠し、勇気を振り絞って、超フレンドリーにいけばイケることを信じ、就職活動で培ったばかりの営業スマイルで現在地を訪ねてみることにした。

 

するとどういうことだろう、こちらが全力スマイルで話しかけてもニコリともしない。圧迫面接かよ。

40代くらいの男性で、間近で見るといかにも “policeman“といった感じで貫禄がにじみ出ていた。

 

「全然困ってないんですけど、ちょーっとだけ迷子になっちゃって!ちなみにここドコですかね?!」的なノリで現在地を尋ねると「トリアエズ乗レヤ」といったジェスチャーをしてパトカーに誘導された。

まさかタイに来てパトカーデビューすることになるとは…警察署に連れて行かれるのだろうか。

 

走行中のパトカーの中でいくつか質問をされたが、適当にはぐらかし続けた。正直に答えていくと、いずれ『ゴーゴーバーの真実』にたどり着いてしまうと思ったからだ。

ただ「もしかしたら、このまま許して宿まで送ってくれるかもしれない」と考え、滞在先の宿だけは正直に答えることにした。

 

しかし、その願いが叶うことはなかった。

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最終章 『走馬灯』

質問をはぐらかしているのが分かってしまったのだろう、パトカーの中には先ほどにも増して重苦しい空気が漂っている。

 

そして途中、とても重要なことを思い出した。

タイには当時、

ニセ者の警察官が出回っていた

ことを。

 

一緒にいた2人に日本語でコッソリ伝えると、当然「そろそろ本格的にヤバイ」という話になった。

ニセ者警察官もさすがにパトカーまでは用意しないだろう…だが、本物のタイのパトカーがどんなデザインなのかもよく分からない。

 

これまでの人生が頭の中で走馬灯のように浮かぶ。そして、日本で待ってくれている彼女のことを思い出す。

…いやしかし我々が向かっていたのはゴーゴーバー、同情の余地さえないだろう。それどころか、バレたら二度命を失う可能性さえある。

 

途方に暮れた私たちは、本物かニセ者かも分からない警察官に全て正直に打ち明けることにした。

もちろん、ゴーゴーバーへ向かっていたことも。

 

どんな凶悪な犯罪者だって人の子だ。子どもの頃はみんなオネショしたり、虫かごを抱えてセミを捕まえたり、河原でエロ本を拾ったり、その隠し場所に頭を悩ませていたはずだ。

きっと正直に腹を割って話せば分かってくれる…そう信じて。

 

『ゴーゴーバー』という言葉を発した瞬間、ルームミラー越しに警察官と目が合った。相変わらず鋭い眼光を放っている。

 

もうこれはもはや、警察官が本物だろうがニセ者だろうがどちらにしろアウトなパターンだ。

その後3人とも無駄な悪あがきはやめ、再び車内は沈黙に包まれた。その時間は永遠のものに感じられた。

 

どれだけの時間が経っただろう。パトカーが停車し、降りるよう指示された。

 

もう終わりか…と思い目線を上げてみると、何やら周囲がガヤガヤしている。

ピンク色のネオンが眩しく光っている。

 

…着いた場所は、もうお分かりであろう。

 

ゴーゴーバー

だったのである。

 

そう、ゴーゴーバーが休みだなんて嘘っぱちだったのだ。

そして、どうやら彼は本物の警察官だったらしい。

 

周囲の視線を一斉に浴びながらパトカーを降りると、警察官が満面の笑みを浮かべ私たちにこう言い残し去って行った。

 

「ココの○○って店、サイコーだゼ?」

おわり

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